文翔館(旧県庁)のすぐ東側の十字路に、軽食も出してくれるカフェと古本屋をミックスした面白い店がある。南側壁面の大きなガラス窓にはワニのくちばしのようなポップアートが描かれ、音読みしたときの店名と重なり、まさしく噛み付くイメージで命名したとばかり思っていた。その名は「紙月」。
ところがどうも「痛々しい名前だな」と思っていたが、オーナーの高野彰さんにお聞きしたら、その店名の由来はジャズナンバー「ペーパー・ムーン」の紙と月とのこと。そのユーモア溢れるネーミングもさることながら、だとしたら店の南側にひろがる大きなガラス窓に描かれたワニのような絵は何? 鼻と口とむき出しになった歯が描かれているではないですか。優しげに近づいて来ていきなりガブリと噛みつかれそうな雰囲気。タッチがポップなので笑ってしまうが、なかなかユーモアセンスのイイ店である。実はそのデザインのもとになっているのは愛犬 Pung(ぷん)なのだという。娘さんがアイディアを考えだしたものを友人のデザイナーが仕上げてくれたものとのこと。
さて、「紙月」は、オーナーの高野彰さんが国家公務員を定年まで勤め上げた後、還暦をすぎてから開業した店である。
少しオーナーのことばに耳を傾けてみようか。
紙月書房とは〜本とコーヒーと音楽をこよなく愛する店主が開いた古本喫茶。お気に入りの本を読みながら、コーヒーを飲み、おなかが空けばこだわりカレーも注文。窓の外に広がる文翔館の庭を眺め、ぼ〜っと過ごすもよし。好きなようにお過ごしください。店主イチオシのメニューは〝しみじみお茶セット〟。と、こんな感じ。
早い話、古本屋でもあり、喫茶店でもあり、軽食屋、そして休憩室でもあるということだ。
店内をみると所狭しと本が積み上げられている。古書独特の匂いも好きな人にはたまらない。ジャンルも小説から歴史書、図鑑まで。気の赴くまま手に取って眺めるのもまた楽しい。
一時間ほど店にお邪魔していると、なんと、コーヒー一杯もオーダーすることなく、古本棚だけを眺めて帰るお客さんもいた。何気なくオーナーに「いいの?」と尋ねると「おぅ、全然問題無しだよ」という答えが返って来た。おう、見た目通りの「太っ腹!」だ。
紙月書房(カミツキショボウ)
山形市六日町7-53
Tel 023-631-8735
Mail : info@kamitsuki.jp
営業時間 10:00〜19:00
定休日 火曜日、第2・4 水曜日
(出典:『やまがた街角 第85号』2018年発行)
●『やまがた街角』とは
文化、歴史、風土、自然をはじめ、山形にまつわるあらゆるものを様々な切り口から掘り下げるタウン誌。直木賞作家・高橋義夫や文芸評論家・池上冬樹、作曲家・服部公一など、山形にゆかりのある文化人も多数寄稿。2001年創刊。全88号。