万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。
レザー文具を展開する「アシュフォード」でリフィルの企画を担当されている江畠杏奈さんにお話をうかがいました。
紙1枚のメモに3本の万年筆を使うこともあります
小さいときから紙に「何かを書く」という行為が好きで、絵だけでなく俳句や短歌、作文をルーズリーフに書いていました。その延長で画材への興味が出て、えんぴつやシャープペンシルも絵を描くときに使用するようなタイプを好んでいましたね。
最初の職場は、学生のときにアルバイトをしていた「ヴィレッジヴァンガード」です。ステーショナリー担当として、日々好きな文房具に囲まれながら働いていました。販売員の魅力は、自分が選んだ商材をお客様が買ってくれること。お店の売上になるのはもちろんですが、私が推している文具が人気になるほどに自己肯定感も上がっていって、楽しく仕事をすることができました。その後、違う職にも就いたのですが、やっぱり文房具に関わる仕事がしたいと思い、文房具店に転職。そのときに「高級筆記具」の担当になって、万年筆と出会いました。
お客様に使用感を伝えるために試筆をするので「セーラー」、「プラチナ」などの定番品を中心に触れる機会が多くなっていきました。初めて"自分のもの”として所有したのは、知り合いからいただいた「PILOT/コクーン」です。カリカリとした書き味で、今でも「PILOT」の万年筆は好んで使っています。
現在は、レザー文具メーカーの「アシュフォード」でシステム手帳に入れて使う「リフィル」の企画をしています。システム手帳と万年筆は密接な関係にあるので、ますますその世界にハマっていっているのを実感していますね。
私にとって万年筆は、普通のペンと変わらない存在。メモ書きであったり、会議や打ち合わせで書き留めるときにも使っています。万年筆は書き味がなめらかなので、ササッと書きやすいんですよ。適当に書いたメモを会議が終わってから付箋に書いたり、システム手帳のダイアリーに清書することも。もちろん、そのときにも万年筆を使います。
「モンブラン」などの高級ラインもメモ書きで使いますし「このためだけに使う」ということはないです。30本ほど所有している中で、5本ぐらいはインクを入れずに保存していますが、基本的にはすべて稼働させています。
弊社で販売しているペンケースに3〜5本ほど入れて常備し、ローテーションさせています。中身は、同じメーカーだけで揃えているもの、国内メーカーで揃えているものなどさまざまです。
字を書くことが好きですし、何より万年筆を使いたいんですね。1枚の紙で違う万年筆を3本使用することもあります。本当は全部の万年筆を持ち歩いて使いたいぐらいなんです(笑)。
私は、リフィルの販促としてSNSでの発信も担当しています。
万年筆に慣れていない方から、インクを使って紙に書くことが怖いという意見もいただいたので、その不安を払拭するために、裏写りや滲まないリフィルの紹介をするようにしました。使用例として配信しているものは、私が書いたものなんですよ。
個人的には、リフィルを水で濡らしてから万年筆のインクを垂らし、霧吹きで水をかけてグラデーションカラーのリフィルを作って遊んだりもしています。それぐらい万年筆とインクは自由度が高いんです。
「字を書く」ことは自分らしさを表現することに近いです
文房具は実用的なものとしてだけでなく、自分らしさを表現できるアイテムだと思っています。カバンや靴は、人目に触れるので、自分の"好き”だけを詰め込んだコーディネートでは、ときにめちゃくちゃになってしまうじゃないですか。冒険するにはハードルが高いですよね。
文房具って小さいものだから、人目には触れにくい。だけど、自分の手元にあるものなので、一番良く見えます。だからこそ、気に入ったものを使いたいですし、少し思い切ったデザインだとしても私が楽しめるものにしたいんです。万年筆の軸のカラーリング、太さ、長さなど形状のバリエーションも多いですし、インクの色やペン先も豊富。その中から、自分らしい万年筆を選ぶのがおもしろいんですよ。
その万年筆で書く自分の字も唯一無二。字を書く行為も、自己表現のひとつだと思っているので、好きな文具で、思いっきり自由に書きたいです。
(取材・文/中山夏美)
※八文字屋OnlineStoreのWEBコラム「Life&Pen」より転載。