全国の書店でトークショーを繰り広げている、ベストセラー作家の畠山健二さんと山口恵以子さん。作風の違うふたりがどうして「チーム」を組んだのか。そのいきさつとエピソードをお話しいただいた。
『本所おけら長屋』(畠山健二)と『婚活食堂』(山口恵以子)のシリーズはともにベストセラー。今回は、全国に熱烈なファンを持つ人気小説家のご両人にご登場いただいた。写真のイメージは海外のファッション誌である。当初は「こんなハデなの着るの?」と、訝しげなおふたりであったが、撮影が進むうちに本領を発揮、持ち前のサービス精神で自らポーズを付け、ノリノリで撮影は終了。その姿のまま対談に突入した。
八文字屋(以下、八)おふたりは日本全国の書店を巡りながら、精力的にトークショーをされておられます。書店界では絶妙のコンビと、その名が轟いております。出会いのきっかけは何だったのでしょうか。
山口恵以子(以下、山口)4年前でした。日本橋の丸善でイベントがありまして、私は担当編集者とブースに座って、過ぎゆくお客さんをボーっと眺めていたんです。雨も降りだし、このまま終わるのかなと思ったら、突然、法被姿のおじさんが登場、お客さんの前にわざと本を落として「奥さん、ちょっと!」とか言いながら足を止めさせ、香具師顔負けの口八丁手八丁で自分の本を買わせてしまうんですよ(笑)。そのおじさんが、ここにいる畠山さん。
畠山健二(以下、畠山)黙って座っていても本は売れません。自分の書いているものに自信があったら、買ってもらうようにしなきゃ。書店さんに対しても「よし、この人の本を売ってやろう」と思ってもらうことが大切なんですよ。
山口 畠山さんが「一緒にやらない?」というから、私もお客さんの前で通せんぼしたり、ありとあらゆる手を使って本を売りつけた。お客さんもまったく嫌な顔をせず、笑いながら本を買ってくれました。新鮮ですっごく楽しかった。
畠山 それがご縁で、私がMCを務めるJ:COMのテレビ番組に出てもらったりしました。同世代だし、実家が下町で商売やっていたのも同じで、最初から気が合いました。PHPの担当編集者が同じだったこともありまして、やがてトークショーをすることになり、全国の書店さんを巡ることになったわけです。
いろいろな読者と出会えて話ができるのが嬉しい
八 いよいよチーム結成ですね。おふたりのトークは、爆笑の連続だと聞きますが、打ち合わせなどはされるのですか?
山口 1秒もやったことないです。畠山さんは漫才の台本を書かれていたこの道のプロですから、おまかせです。ときおり暴走機関車化してしまう私を、うまい具合に誘導して回してくれるんですよ。私は猿回しの猿、いくらでも回りますよ(笑)
畠山 それでも現場ではいろいろあります。あるとき、隣でウルトラマンショーが始まっちゃった。ウルトーラの父がいる〜♪ とか(笑)。普通の作家なら怒って帰ってしまいますよ。でも、それってトークのネタになるじゃないですか。
山口 そば屋さんの近くでトークショーやってたら、店員さんが出てきて「佐藤さーん」と呼ぶんです。すると、3人立ってそば屋に入ってしまったことありましたよね。
畠山 おいおい佐藤さん、トークショーじゃなかったのかよ。で、そば屋の順番待ちの人は? と聞くと、ほとんどの人が手を挙げました(笑)。
八 どんなアクシデントもネタにしていくんですね。
山口 ある日、話がだんだんと出版業界の悪口になり、身も蓋もないことになっていきました。すると、真面目そうな若い女性が手を挙げて「作家になるにはどうしたらいいのですか?」と聞くから「売れてる作家の愛人になることよ」って答えたら、畠山さんが慌てて「おねえちゃん、この人変だからね。許してね」って( 笑)。女性に歳を訊ねたら「23」と。すると畠山さん、きっぱり「愛人しかない!」(笑)。
畠山 ある地方では、80歳を過ぎたご老人が「私が死ぬまで書き続けるって約束してください」とおっしゃるから、ちょっとすみませんけど、あなた何歳まで生きるおつもりですか? って思わず聞いてしまいました(笑)。そこで書店の方に、この人が毎月本を買いに来ますので、来なくなったら教えてくださいとお願いしましたよ。当のご老人も一緒になって笑っていました。
山口 ホントいろんな人がいます。休憩中にいきなり「二股かけられたみたいなんです」と人生相談されたことがあります。
八 どうお答えになったのですか。
山口 早めにわかってよかったじゃないの、結婚してからだったらもっとたいへんよって。あとでその方からお礼のお手紙をもらいました。トークショーでは、いろいろな読者の方と出会えてお話しできるのが、なにより嬉しいことです。畠山書店さんで全然関係ない人が数冊の本を持って歩いてると、こっちの方が面白いですよと自分の本を差し出す(笑)。その場でサインも記念撮影もします。みなさん喜んで買ってくれます。
八 人を喜ばせて読者にしていく。それを実践しておられる。
山口 畠山さんは「世の中の職業はすべてサービス業だ」とおっしゃっています。作家も同じなんですね。
畠山 サービスは仕入れもいらないし、だめでもともとじゃないですか。で、トークショーの最後では、その書店さんを持ち上げる。本当に素晴らしい書店であると(笑)。
山口 みなさん、本なんてどこで買っても同じだと思っていませんか? 違います。八文字屋さんで買った本には「愛」があるんです――それを翌日は、別の書店さんでも言うのですが(笑)。
八 そうやって、これからも「巡業」は続いていくわけですね。5月の当店でのトークショーとサイン会を、今から楽しみにしてお待ちしています。
(撮影/植野製作所 スタイリスト/土田拓郎 文/宇野正樹)
5月27日(土)TENDO 八文字屋で、畠山健二先生と山口恵以子先生による、トークショー&サイン会を開催します。イベントの詳細は後日ホームページでお知らせします。
本所おけら長屋(二十)
著/畠山健二
PHP文芸文庫
770円(税込)
江戸は本所の「おけら長屋」では、万造、松吉のコンビを筆頭に個性的な住人が入り乱れ、毎日がお祭り騒ぎ。20巻では、聖庵堂の医師・お満に長崎留学の話が持ち上がる。シリーズ累計180万部突破の最新作。
バナナケーキの幸福 アカナナ洋菓子店のほろ苦レシピ
著/山口恵以子
PHP文芸文庫
836円(税込)
お菓子作りが上手な母・茜と、法律事務所に勤める娘の七。ある日、茜は夫から突然離婚を言い渡されてしまう。「人生へのリベンジ」をかけて、母娘二人のケーキ販売が始まった!
婚活食堂 8
著/山口恵以子
PHP文芸文庫
803円(税込)
常連客たちの〝結婚„の悩みを、主人公である「めぐみ食堂」の女将が解決していく。「食堂のおばちゃん」シリーズがヒット中の著者による、連作短編集シリーズ最新刊。5月発刊。