アウトドアやエンタメなどでライターをしている中山です。小学校から中学校まで『りぼん』そこから『別冊マーガレット』に移り、そして『Cookie』へ。『なかよし』の戦う女子よりは、王道恋愛漫画に憧れる少女時代を過ごしました。そんな私が好き勝手に漫画を紹介する連載、第3回目は『消えた初恋』(集英社)です。

『消えた初恋』 原作・ひねくれ渡 作画・アルコ



あらすじ

主人公・男子高校生の青木は、隣の席の橋下さんに片思いをしている。ある日、橋下さんに借りた消しゴムに「イダくん♡」と書いてあるのを見てしまう(誰にも見られずに使い切ると恋が叶うというおまじないですね)。「もしやこれは俺の前の席に座る井田のこと…!?」と青木がショックを受けていると、その消しゴムを井田も見てしまい、「青木は俺が好きなのか…?」と勘違い。絶妙な三角関係からスタートする純度100%の初恋物語だ。

一生懸命恋する姿に共感の嵐

『消えた初恋』は、2019年に『別冊マーガレット』で連載され、コミックスは全9巻。すでに完結しています。2021年には道枝駿佑さん(なにわ男子)と目黒蓮さん(Snow Man)のダブル主演でドラマ化。ドラマがヒットしたことでも、大きな話題となった作品です。

『別冊マーガレット』といえば、多くの少女漫画作品を発表している雑誌。代表作といえば『君に届け』や『いたずらなKiss』、『花より男子』など、名作揃い。その雑誌において『消えた初恋』は、ちょっとだけ異色な存在。なぜなら、この物語は男子高校生同士の恋愛を描いたものだからです。いわゆる「BL」と呼ばれるジャンルなので、王道の少女漫画とは少し異なります。

当初、編集担当者はひねくれ先生の原稿を読んだときに「掲載誌は、別マ(別冊マーガレットの略)じゃないほうがいいかも」と思ったといいます。しかし、編集長が「一生懸命に恋している話なんだから、別マの読者にも魅力が伝わるよ」と言ったことで、別マでの連載がスタート。結果的に、性別を越えて「純粋に恋する姿」に共感する人が続出したわけです。

それでは早速、その魅力に迫っていきたいと思います。

〈魅力1〉
異性とか、同性とか、そんなことは関係ない!

「BL」と聞くと、もしかしたら抵抗がある人がいるかもしれません。しかし! 本作品を読めば、そんな小さいことに囚われなくなります。公式も、「BL」とジャンルを発表していませんし、その理由を勝手に解釈すると、ただ単純に「恋をしている人たちの物語」と感じるからだと思います。

青木が井田を好きだと気づいたとき、やはりどこかで「男を好きだなんて…」という気持ちは芽生えます。からかわれたり、嫌な目に合うかもしれない。だから、この気持ちは実らないほうがいいんだ、と思ってしまう。そんな「相手を真剣に想う人」を見て、誰が偏見を持ちますか! 

それに青木が不安に思うこと、井田が感じることのすべては、同性だから起こりうる悩みだけではないんです。恋愛をする人ならば、誰しもが抱くであろう感情。しかも高校生という多感な時期です。純粋に誰かを想うほどに、気持ちは複雑になっていきます。ドンと構えて寡黙な井田だから、不器用な青木は常に悩みがち。私は青木の起伏の激しい感情の揺れに「わかる〜」と思ってしまいました。相手の言葉に一喜一憂して、幸せな時期であったって不安が隣り合わせ。10代の恋って、そんな感じですよね。

ひねくれ先生は、とにかく「全力で恋愛をする姿」を丁寧に描いています。細かな気持ちが伝わってくるので、キャラの感情の乱れや心の変化、嬉しさも悲しみもすべてに共感。高校時代が遥か昔の方でも、エモさマックスで読めると思います。

〈魅力2〉
まぶしい恋愛模様に、全世代が胸キュン!

そもそも恋のスタートが「消しゴムに好きな人の名前を書いたおまじない」って、青春ど真ん中すぎませんか!? 30代の私は「まだそのおまじないってあるんだ〜」って思いましたよ(笑)。本作では、そういう10代ならではの恋愛模様をたくさん見ることができます。

初めて手を繋ぐときのもどかしい様子。好きな人を見ているだけで幸せな日々。相手のことを気遣って身を引く健気な姿。高校生たちが右往左往しながら“初めて人を真剣に好きになる”。一途に誰かを思い、眠れないぐらい悩む。でもその恋するパワーで、勉強も頑張れるし、成長もできる。

まぶしい、まぶしすぎる。青い春すぎて、頭が沸騰しそうです。既婚一児の母の私には、白目ものの世界ですが、逆にリアルではもう経験できないであろう青春に漫画で存分に浸れるのはありがたいです。

出てくるキャラクターは、みんな誰かのことが好きで、だけど自信がなくて、無我夢中です。全員を応援したいし、みんな幸せになってほしい。そんなピュアすぎる初恋の行方をぜひ本作で堪能してほしいです。

笑えて泣ける10代の恋を見守ろう!

青木と井田以外に、橋下さんの恋物語も必見。彼女は、青木が同性の井田を好きでも一度も否定したことはありません。そういう優しさに青木は何度も何度も救われます。その熱い友情もいいんですよね。また、少女漫画には珍しくギャグ要素も満載なので、青木の心情をコミカルに読むことができます。昨今、不倫ものや重たい恋愛ものの作品が人気ではありますが、純度100%な恋愛を読んで心を浄化してみてはいかがでしょうか!