万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。
イラストレーターとして活動されているmizutamaさんにお話をうかがいました。


職業:イラストレーター 保有万年筆:数十本(把握しきれず)


万年筆って意外とタフなんですよ

万年筆のことは"敷居の高い文房具”だと思っていました。年配の男性が使う高級な筆記具のイメージがあったことから、私とは別世界のものに感じていたんです。なんとなく遠い存在だったものが変わったのは「PILOT/iroshizuku」のインクに出会ったとき。インクは万年筆に入れて使うと知ったんです。それで「この素敵な色のインクを万年筆に入れて使いたい」と思ったのが始まり。初めて万年筆を購入しました。

でも、どんな万年筆を買ったらいいのか、どうやったら使えるのか、万年筆以外に何が必要なのかもわからなくて、本やインターネットでいろいろと調べるところからスタートしました。何も知らない私が5,000円以上もする万年筆を選ぶことはできず、最初はデザインと買いやすい値段から「LAMY/safari」を購入。そこから「沼」にハマっていくスピードは早かったと思います。



私が持っている万年筆は、比較的手に取りやすい価格帯のものばかり。数えられないほど万年筆は持っていますが、1万円以上するものは数本で、使うのも勇気がいります。私の中で万年筆も、できるだけ日常使いしやすい存在でいてほしいので、手頃なものを選んでいます。



主な用途としては、手帳やノートにメモを書いたり、絵を描くとき。最初はちゃんとしたお手紙のときにしか使っていなかったのですが、今は走り書きのメモでも使っています。それは万年筆が繊細すぎるものではないと気づいたから。意外とタフなんですよ。バーっと一気に書きたいときにも筆圧をかけずにサラサラと書けるし、なんとなくいつもの自分の字より上手に見えるんです。ボールペンやサインペンでは味わえないインクの濃淡や同じ字を書いているけれど、太いところ、細いところがあって、別物のよう。その楽しさを知って、ますます「万年筆っておもしろい」って思うようになりました。

普通のペンと違って、毎日使わないとペン先が詰まったり、定期的に洗浄も必要ですし、メンテナンスをしなくちゃいけないから手間はかかります。でも「手間のかかる子ほどかわいい」というように、そういうアナログさも楽しいんですよね。

紙との相性もあって、一般的なコピー用紙だとインクが滲むことも。「この紙だと書き味がいい」、「この紙は万年筆のインクの色がよく出るな」とか、同じインクでも違う紙だとインクの色が変わって見えたりするんですよ。そんな研究をする時間も大人の嗜みって感じがしてワクワクします。

おすすめのノートは「Rollbahn」や「LIFE」。私は方眼タイプを愛用していて、絵を描いたり、枠を書いたりするときにも便利です。



万年筆とインクはセットで楽しみます

万年筆が好きな友達に手紙を書くときには、毎回違うインクを使います。そうすると「このインクはどこメーカーの何色?」って問い合わせがきて、また会話が広がる。万年筆好きは、インクも好きだから、みんな気になるんですよね。私も万年筆好きの方からは、いつも違うインクのお手紙をいただくので、そういう好きなものの情報交換も楽しくて。

ときには友達とインクの交換もします。気に入ったインクをプラモデルなどを扱っている「TAMIYA」の「スペアボトルミニ」に詰め替えて渡すんです。プラモデル用の塗料を入れるボトルなので、漏れにくくて重宝しています。



インクもたくさん持っていて、本当奥が深いんです。例えば「オフィスベンダー」の「杜の四季インク 仙臺萬年鉛筆HB」は、インクなのに鉛筆のような色。万年筆のインクをあえて鉛筆に寄せているっておもしろいですよね。インクひとつひとつに色の名前やコンセプトがあるから、知れば知るほど、いろんなものが欲しくなっちゃう。インクの瓶もオシャレなものが多いので、飾っておくのも素敵なんですよ。



インクは水性なので、その上から水筆でなぞると水彩っぽくも見える。ノートに太目のペン先の万年筆で描いて、その上でインクを混ぜてみたり。仕事の合間にちょっとした息抜きに遊んでいます。やっぱりアナログの「偶然出会えた色」の感じはデジタルでは味わえない。限りなく近く表現できるアプリもあるんですが、絶妙なインクの濃淡はアナログならではなんですよね。

絵を描きやすいように調整師の方にペン先を調整していただいた万年筆も持っていて、それは筆のようにしなるぐらいペン先がやわらかい。太い、細いも分けて描け、ベタ塗りもできるんです。万年筆1本で、いろんな遊びができます。それが魅力ですね。


お気に入りの1本:八文字屋オリジナル/くらげアクアリウム・万年筆 「勇気を出して買った1本。インクも同じく『くらげアクアリウム』を入れています」


(取材・文/中山夏美 撮影・長岡信之介)

※八文字屋OnlineStoreのWEBコラム「Life&Pen」より転載。