カメラマンからの転身

川沿いに建つ店はログハウスで、西の白山通りから入れば右側、東から入って来れば赤い白山橋を渡ったすぐ左側にある。目の前は桜が咲き乱れる白山神社がある。大通りから一歩入った立地は目にしやすく、くつろぐには便利な立地である。

ここは二軒目の店で、以前は程近い南栄町1丁目の国道348号線と白山通りの南東側角にあった。現在地へは平成4年4月に移転してきた。



マスターの飛渡正置さんは、佐賀県出身の九州男児だが温厚な人柄で、奥様の山形に定着し一人で店を開いた。もともとは東京で商業カメラマンとして活躍し、友人と一緒に新大久保で喫茶店をしていたこともあった。今の店名は当時と同じで、珈琲を共に学ぼうという気持ちから「舎」を付けた。そんな体験もあって、山形でも喫茶店をしぜんに始めたという。

「カメラマンをしていた時に東北6県を飛び回っていて山好きになり、自分で店を持つんだったらログハウスにしようと考えていました。それで、一軒目の店のお客さんの中に設計士さんがいて、その方にお願いして二軒目の今のログハウスを建てて貰いました。ここへ移転したわけは前の所がパチンコ屋になるというので、幅広い誰でも来られる店がいいと考えていたので、そこを引き上げたわけです。軌道に乗っていい時だったんですけどね」

当時は喫茶店ブームでもあった。しかし11年続いた場所を現在地に移して不安はあったものの、まちなかのログハウスは珍しかったし、何よりも当時のお客はそのまま新しい店に来てくれた。


ログハウスの自然な木の香が漂う店内


長年の人気の秘密とは…

「お客に助けられて長く続けてこられたことが今の財産です。コーヒーは飲みやすく美味しいものをと心掛けて出しています」

サイフォンの前に立つと、マスターの面差しは真剣そのものとなる。話し掛けるのがはばかられるようで、カウンターの客は一斉に手許に目を落とす。(写真撮影では笑顔ですが…)。

長年の人気の秘密には二つある。一つは女性客がマスターに会いたくてやって来る。知り合いの男性に言えなくてもマスターなら言える。若い男性客にとっては〝いい兄貴〟でいる。そんな雰囲気がある。それともう一つは、マスターのこれも長年のキャリアに裏付けられた接客法である。




開店当時の青いマッチ


「メニューにもいろんな味があるようにいろんな楽しみを見つけてほしい。そのためにお客からはいろんなことを学んでいる。それを伝え、お客を繋げていく。また料理の出し方でも急ぐ客、くつろぐ客の二通りを見極めて作っています。待ってもらえそうな常連さんへの一言も大事です。お客みんなが気持ちよく過ごせる空気でなければいけないと常に心掛けています」

客層は広い。前の店の時代からの客も多く、「30年来の主がいっぱいいます」と、常連の一人に笑顔を向けて話した。「一度来てうちのこの雰囲気が気に入ったらまた来てほしい」そういつも思って、マスターは明日もサイフォンと向き合う。



珈琲舎
山形市白山 3−10−5
TEL. 023-642-9087
営業 12:00〜21:00
定休日 不定休

(出典:『やまがた街角 第85号』2018年発行)

●『やまがた街角』とは
文化、歴史、風土、自然をはじめ、山形にまつわるあらゆるものを様々な切り口から掘り下げるタウン誌。直木賞作家・高橋義夫や文芸評論家・池上冬樹、作曲家・服部公一など、山形にゆかりのある文化人も多数寄稿。2001年創刊。全88号。