「こんな学校生活を体験したかった」。今回紹介する『スキップとローファー』(講談社)を読んだ最初の感想です。だからといって、きらびやかな世界だけが詰まっているわけではありません。眩しいほどの青春と、それとは対照的にある10代特有の悩み。どちらも妙にリアルで、むず痒くて、彼女たちのように素直になれなかった自分に後悔すら感じてしまいます。
『スキップとローファー』 高松美咲
スクールカーストなんて関係ない
『スキップとローファー』の主人公・岩倉美津未は、石川県の端っこから東京の高校に進学してきました。過疎化が進む田舎育ちで同級生は8人だけ。男女隔てなく“みんなが平等に友だち”として学校生活を送ってきた美津未にとって、都会の進学校はカルチャーショックの連続です。
普通の学校生活を送っていたとしても、そこには目に見えないスクールカーストは存在しています。多分、経験したことがある人も多いはずです。中位層に所属していた私は、派手目なギャル層は苦手だったし、逆に下位層を少しバカにしている気持ちがありました。
どちらの層とも仲良くなろうとはしなかったし、同じクラスでも話すことがほとんどなかったように思います。上位層の人を見ると「ダサいと思われてそう」と萎縮して、下位層の前では強気な自分もいました。誰かに「あなたはこの層です」と言われたわけでもないのに、勝手に所属して抜け出せなくなって、違う層の人を見ようともしていなかった。そう思います。
美津未と仲良くなる3人は、その階層がバラバラのキャラです。上位の子と中位の子、下位の子が同じグループになります(私の勝手な判断ですが)。この漫画のおもしろさは、そこにあると思っています。
交わらなかったかもしれない子たちが友情を育むことによって生まれるギリギリの不協和音。それがリアルであり、当時の私が知ることのできなかった気持ちでもありました。価値観が違う、気が合わないと思っていたメンバーが“本物の友だち”になっていく。こんな尊いことはありません。
劣等感と戦い、強くなっていく
冒頭で言ったように『スキップとローファー』には、きらびやかな学校生活だけが詰まっているわけではありません。劣等感や嫉妬、思い込みからくる不安など暗い部分も描かれています。
とくに美津未の友だちのひとり江頭ミカは登場から嫌な一面が見えるキャラでした。下位層と決めつけた美津未を最初はスルーしたのに、学年屈指のイケメン志摩聡介と仲良くなる姿を見ると手のひらを返したように優しくしてみたり。志摩に近づくために美津未を利用している場面が何度か出てきます。
ミカはなぜ、そんな態度をとってしまうのか。彼女の本音が垣間見えるシーンが2巻に登場しますが、高松先生いわく「読者からの反応がいちばん良かったシーン」だったそう。大人になってからだって妬み嫉みは抱くもの。10代なら尚更感じてもおかしくない。それを生々しく、鮮明に描いていることで、大きな共感を得たんだと思います。
文化系女子の久留米誠と帰国子女の美人村重結月が友情を育んでいく姿も、私は大好き。スクールカースト的には下位層の誠と上位層の結月に見えるけれど、そんなことはもう表面的なことで、友だちになるのに必要な要素ではないんだな、と思わされます。
抱いてしまった負の気持ちを自分で消化することができれば、大きな成長にも繋がります。相手との関係だって大きく変わるかもしれない。こんな年になってからでは遅いかもしれませんが、彼女たちの姿に学ばせてもらいました。
蘇る青春を肌で感じられる
現在『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載中で、コミックは9巻まで発売中。2023年1月時点では電子版を含めたコミックの累計発行部数は100万部を突破しています。 マンガ大賞2020の第3位に選出され、今年の5月には「第47回講談社漫画賞総合部門」を受賞しています。6月まで放送されていたアニメも大好評でした。
胸キュンラブコメストーリーでもなければ、熱血青春ものでもない、普通の高校生活を描いた本作。現実味のある世界観ゆえに、読む人によっては思い出したくもない過去が蘇ってしまうかもしれません。でも、同じぐらいキラキラしていた日々も思い出せるはずです。この漫画を通して、過去の自分と向き合ってみるのもいいかもしれないですよね。現役の学生より、それが遠い昔になってしまった大人にこそ読んで欲しい漫画です。