人は誰しも相反する気持ちを持っている

 11月に発売された新刊『教誨』(きょうかい)について伺います。今回は執筆中に苦しむ時期があったり、かなり難産だったそうですね。

柚月 これまで、いろんな事件を扱った小説を書いてきましたが、実際に人を殺めるシーンを1番書き込んだのは、この『教誨』だと思うんですね。人を殺めるときの心情であったり、殺めた後にどう思ったのか、人の内面を深く考えていくことが辛かったです。小説に書いてあるのは、私の頭の中のほんの一部。もっとさまざまなことを想像してその中の1/10かそれ以下のものしか書いていません。その思いがいっぱいで気持ちがパンク状態というか…非常に難産でした。



書店へは、とくに用事がなくてもフラッと立ち寄ることが多いそう。



 柚月さんがご自身の母親との素敵なエピソードを話されているのを読んだことがあります。その柚月さんがなぜ「我が子殺し」をテーマにされたんでしょうか。

柚月 何かを表現する人は、右を書こうと思ったら、左を知らないと表現できません。例えば、恋愛の喜びを書こうと思ったら、辛さを知らないと書けませんし、命の重さを書こうと思ったら、儚さも知る必要がある。現在100%幸せな人でも、幸せな思い出だけがある人は多分いません。私は学生の頃「みんなと同じじゃなくてもいい」という気持ちがあった反面、「同じに憧れる」気持ちもありました。人は必ず相反する気持ちを持っているからだと思います。

 犯罪小説ではありますが、フィクションとノンフィクションの境目がいい意味でわからない、私達に近い作品であると感じました。

柚月 どんな人でも、どうにもならないことが起きたときに、明確に答えが出ることは少ないのではないでしょうか。法律に従って罪を罰することはできても「何が悪かった」という答えは誰にもわかりません。『教誨』はある事件をモチーフにしていますが、それもひと口では語れないもの。実際に土地を訪ねて、そのときに五感で感じたものを大事に書いています。

 最後に、八文字屋プレミアム会員に向けてメッセージをお願いいたします。

柚月 この小説には、男性も女性もいろんな年齢の登場人物が出てくるので、きっと自分を誰かに置き換えて読んでいただけると思います。ある人は主人公、ある人はその親。心情を重ね、最後まで読んでいただきたいです。

(インタビュー/八文字屋商品部 文/中山夏美 撮影/伊藤美香子)




教誨
著者:柚月裕子
発売日:2022年11月
発行所:小学館
価格:1,760円(税込
ISBNコード:9784093866644