オアフ島ホノルルのローカルタウン、カイムキの街で愛されるかわいらしい本屋さん。
ハワイ語の絵本から料理本まで、個性的な書籍セレクションと地元に根ざした佇まいが魅力。

明るい雰囲気の店内に、ゆとりを持って並べられる書籍や絵本。ハワイのローカル色が強いものも多い。
オアフ島・ワイキキから車で20分程度のローカルタウン、カイムキ。リゾートホテルが立ち並ぶ華やかな観光スポットからほど近い場所にありながら、その喧騒を感じさせない静かな雰囲気で「古き良きハワイ」の姿を今に残しているエリアだ。
そのカイムキタウンにある、小さな書店が「ダ・ショップ:ブックス+キュリオシティーズ」。一見、小さなカフェかお洒落なショップのようにも見える、蔦が絡まった外観がかわいらしい。その扉を開けると、決して広くはない店内にカラフルな絵本や書籍がセンスよく並んでいる。
地元の出版社が作った小さな書店がすごい
オープンは2018年。親会社は創立45年の「ベス・プレス」という地元の出版社だ。バディ・ベスさんとアン・レイソンさんご夫妻が創設者。バディさんはニューヨークの出版社でのキャリアがあり、アンさんはハワイ大学の文学教授だった。彼らがハワイに出版社を立ち上げたのは、子どもたちの学校教育のための「ハワイの歴史」や「ハワイ語」の教科書作りがきっかけだったという。
ハワイ王国が滅亡してアメリカの州になっていく過程で、ハワイ語が衰退し公立学校での使用が禁じられた時代があった。しかし、その後のハワイアンルネッサンス(※)により、ハワイ語は英語と並ぶ公用語と認定。学校教育に取り入れられた歴史がある。以来ベス・プレスは、幼稚園児から12歳の子どもたちの教材を中心に編集し、ハワイ州だけではなく、マイクロネシア、ポリネシアなどの教育機関とも提携を拡大。他に類を見ない専門的な出版社として、現在に至るまで運営を続けている。
彼らが生み出した書店が、ダ・ショップ。創業者夫妻の息子さんであり、ショップの共同経営者であるデイビッド・デルーカさんは「出版社として本や教科書を作るだけでなく、それを対面で届けられる場を持ちたかったんです。実際にオープンしてみて、書店は地域全体を強く反映する場所だと学びました。うちの場合は、カイムキ、ホノルル、そしてハワイの歴史文化や生活を大きく映し出しているからこそ、ユニーク。そして、人々の交流の場になっているのだと思います」と語る。
お店の前にあるカラフルなポストは「リトルライブラリー」。読み終わった本をここに入れることで、必要な人にシェアできる仕組みだ。自分が興味を持つ本が置いてあれば、持ち帰って読む。読み終えたらまたここへと戻す、小さな小さな図書館。ローカルタウンだからこそ持続できる、アロハな仕組みが微笑ましい。
(※)1970年代に始まった、ハワイの伝統や言語の復興を目指す文化運動

カイムキのハーディング通りに面した趣ある外観。道路を挟んだ向かいにパブリック駐車場が あり、便利なアクセスだ。

自由に本を貸し借りできる「リ トル・ライブラリー」。小さな キッズたちが、背伸びして中を覗き込む姿も微笑ましい。
「ここで出会って欲しい」とキュレーターが厳選した本
現在、常時約3000タイトルの書籍を扱う中で、自社出版のものは1%程度だという。ほとんどの書籍は、入念なリサーチのもと、質と内容にこだわってキュレーションされたものだ。「小さな店舗だからこそ、国内外から厳選した上質な本だけを置きたい。レビューがいい本、高品質な本、アートワークやデザインが美しい本など、独自の厳しいチェックを続けています。単に“売れ筋の本”を扱いたいわけじゃないんです」とデイビッドさん。たしかに、一般的なベストセラー・ブックは、ここではあまり見かけないかも。
こうして隔週毎に、新しい本が100タイトル以上入荷される。大型書店の新刊ラインナップとは違う独自のセレクトには、ミックスカルチャーなハワイらしい「世界の料理本」や「英訳された日本の絵本」、サーフィン関連の本やコミックなどもあり、宝探しみたいで楽しい。そして前述の通り、ハワイやオセアニア関連の出版については特別なルートを持っているからこそ、地元に根ざした歴史的書籍や絵本、教育書の品揃えが優秀なのは言うまでもない。
余談だが、時々作者の直筆サインが入った書籍も置かれていたりする。大きな告知もなく、本棚の中にひっそりと並んでいるのだ。「偶然見つけたお客さまが、えー!って驚いてくれるのが楽しくて」小さな書店ならではの、そんなサプライズも素敵だ。
旅行の目的地にもなる「地元の本屋さん」とは
デイビッドさんは「じつは今、アメリカでは紙媒体の書籍が電子書籍よりも読まれているんですよ。2020年以降、国内で書店自体の軒数も増え続けているんです。クリック一つでどんな本も簡単に買えるオンラインショップとは違い、地域や経営者の個性が反映された書店へ出向き、実際に手にとって選びたいという人が増えたのかもしれませんね」とも。
旅行者が、新たな体験を求めてその地の書店を訪れることも増えているという。ここも、2018年にニューヨーク・タイムズの「旅行セクション」で取り上げられた。リゾート地ハワイ旅行のおすすめスポットとして、小さな街の書店が選ばれるのは不思議な気もしたが、ハワイの歴史や文化を感じられる有意義な場所と思えば納得。地元のリピーターと旅行者、どちらにも常に新しい価値を提供できる本屋さんって、すごい。
ちなみに、ここカイムキには大手チェーン店の進出が少なく、地元スモールビジネスが協力しあっているのも特徴。周辺のレストランやショップとの横のつながりが強く、互いにお客さまを紹介しあったり、街全体のイベントを共に盛り上げたりすることも多い。
そういえば、私自身が最初にここを訪れたのも、ご近所のカフェで紹介されてのことだった。そして私も、あらたに友人たちを連れて立ち寄ったり。巡り巡って、この場をハブに絆がつながっていく感じ。あらためて興味深い。
毎週土曜日には、店の倉庫スペースでコミュニティ・イベントも開催。作家のトークショーや絵本の読み聞かせなど、内容は様々。無料で参加できるキッズアート教室もある。地元コミュニティとしっかり向き合い、地に足をつけて活動を続けるダ・ショップ。小さな書店のアロハな挑戦、これからも目が離せない。

オーナーのデイビッドさんが手にするのは、ハワイ最後の国王・リリウオカラニ女王に関する一冊。ハワイの歴史を学べる専門書も多く扱う。

色彩豊かな絵本は、アートとして飾りたくなるクオリティ。ハワイ語を使った作品は、旅行のお土産にしても喜ばれそう。

話題の新人作家の作品などもいち早く扱い、情報発信やコミュニティスペースとしての役割も果たす。

ハワイ語でハワイの天候や自然、ライフスタイルについて描かれた絵本。ユニークなイラストもキュート。

ロゴ入りのシンプルなトートバッグやセン スの良い文房具、グリーティングカードな どもあるので、ぜひチェックを。
※本記事は『八文字屋plus+ Vol.8 冬号』に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。