太古の海に思いを馳せてお湯に入る⁉

編集部 では、逆に庄内の人達に楽しんで欲しい内陸の温泉というと?

伊藤 うーん、テルメ柏陵とかかな。テルメ柏陵の場合は、やっぱりそこもとても成分も濃いんですけれども、マグネシウムとか、臭素、ヨウ素とかどこの温泉にでも入っている成分ではない物も含まれて、塩分濃度も濃いんです。
あとは成分の組み合わせの妙、日によって色が変わるっていうのは、ちょっと楽しいんじゃないかと思うんですけど。

編集部 日によって変わるっていうのは、太陽の光線の条件によって?

伊藤 それプラス、温泉成分の組み合わせと外気温とかそういうのと、あとお湯を出す量とかの組み合わせで。温泉はもともとどんな温泉でも湯口から注がれるときっていうのは無色透明なのですが空気に触れて酸化し、含まれている成分のタイプで色味も変わったりするんですよね。

テルメや上にある柏陵荘は、そこが結構顕著に出ていて日によって水色に見えたり、薄くグリーンがかっているとかっていうのがあるので、今日は何色だろうっていう、それを施設のほうでもその売りみたいなのを十分把握しているので、今日は何色ですっていう掲示をしてあるんです。

長岡 うんうん、してあるね。

伊藤 玄関先とか、浴室に行くまでの間にね。そうすると、「あっ今日は何色なんだ、へえー」ってウキウキして入る楽しみがあります。

編集部 色で楽しむんだね。

長岡 りんご温泉も独特だと思うよ。

伊藤 りんご温泉の匂いって「うわー、いい」って言う人と、「どうなんだろう」って言う人と好みが分れるかとは思うんですけど、お湯自体はつるっとした成分で、そこの太古の、なんていうのかな、地層の成り立ちとかも関連していると思うんですけど、場所は朝日町なんですけど、ヤマガタダイカイギュウが出たっていう発掘跡が近くにあるんです。

編集部 そう。川のほうに下りてね。

伊藤 断崖絶壁になって地層むき出しになっているところが見られるんです。昔海だったっていう場所なので、いろんな有機物が溶け込んだミネラル成分みたいなのが含まれている。
だからあの泉質なんじゃないかなって思っています。

長岡 でも基本的に塩分が入っていたり、鉱物が温泉の中には当然入っているんですけど、もともとは海底なので、いま私達が入っている温泉というのは、ほぼもう何万年も前の海の水が地球に温められたものに浸かっているということになる。




伊藤 素晴らしい。

長岡 というふうに言えるのかな。

伊藤 大きく分けると、こういう火山だった跡地から出るところと、非火山性と言われる地下水とかがあったまってというところがある。
多分含まれている成分とかがちょっと違ったりするというのもあるんですけど、蔵王なんかはもうね、火山ですし。

長岡 完全に、だから硫黄系はだいたい火山系が多いですけどね。

伊藤 そういう特色もあるので、知ってから行くと、もうほんとに好きな人だったら、そこの太古の昔の姿に思いを馳せちゃうぐらいの楽しみ方もありますよね。
庄内とかはだからそういう昔海だった地層が関連しているから、独特の何か、内陸のそれとはちょっと違う系統の濃い温泉が点在している。

長岡 この化石海水型っていうのでしょうね。庄内はね、ほぼ。

編集部 昔は海だった。太古の海に思いを馳せてお湯に入る、すごいですね。

伊藤 そうです。だってそういうところから派生して、今度また時が経って、油田の発掘だみたいなので、堀ったわけじゃないですか。
実際に庄内で油田を掘ろうと思って、掘ったら出てきたのが温泉でしたみたいなところがやっぱりいくつかありますよ。ぽっぽ。

長岡 ぽっぽの湯。藤島?

伊藤 ぽっぽの湯、はい、元藤島町だった場所、長沼温泉ぽっぽの湯です。


庄内平野


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(出典:『やまがた街角 第32号』2018年発行)

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文化、歴史、風土、自然をはじめ、山形にまつわるあらゆるものを様々な切り口から掘り下げるタウン誌。直木賞作家・高橋義夫や文芸評論家・池上冬樹、作曲家・服部公一など、山形にゆかりのある文化人も多数寄稿。2001年創刊。全88号。