月山の宿かしわや  志田直美(なおよし)さんの話
(西川町志津温泉・月山朝日ガイド協会員)
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引き継いだ山菜魂

月山には「ゼンマイ山」と呼ばれた秘境があったという。

そこは沢をいくつも越えて行く谷底で、雪解け水が増水しない朝の内に帰らないと危険なことになるという地元の人しか知らないゼンマイの宝庫であった。

ところがいくつもトンネルが掘られ、月山新道が開通したらまったくゼンマイがならなくなったという。
その幻のゼンマイ山を知る数少ない一人が志津温泉にある旅館「かしわや」の主人志田直美さんである。

殊に「月山筍」のタケノコ採りにかけては知る人ぞ知る人である。その山菜魂は先代から引き継いだもののようである。

「父は這ってまで行きたがる山菜の好きな人で、足を悪くしてからでも山に行きたいと言っては行方不明になって足を踏み外して倒れていたことがありました。一度は隣近所の人達も心配してくれて一緒に山中を探しに行ったことがありました。」

山菜に夢中になった父親を語る志田さんの表情には、どこか父親を叱れない自分も同類という情愛が感じられるようで微笑ましかった。

次の年のことを考えて採る

月山の山菜採りは四月中旬から始まる。

フキノトウ、キノメ(アケビの芽)、タラノメ、コシアブラと続く。まず山菜採りで志田さんが一番に言っておきたいことから聞いた。

「山菜の種類による違いはありますが、全体的には来年のことを考えながら採ってほしいと思います。
私達は商売に必要ですから毎年採らなければなりません。ですから、例えば草の山菜は一ヶ所からゴソッと採らないで、広い場所でもそっちこっちからポツリポツリとまばらに採って、来年細くなったり尽きたりしないように考えながら採っています。
商売として絶対採らなければならないという使命感で山に入っているわけです。
収穫しないと夜泊まるお客さんに珍しいものを食べてもらえなくなってしまいますから。」

次に、山菜の種類による採り方の違いについて聞いた。

「例えば、山ウドはよくゴソッと根っこから採ってしまう人がいますがそういうことはしないで、横からも芽が生えるのでそこを残して採ってほしいですね。
次に行くと必ずその根から新しい芽が生えています。しかしそれは来年に残して採らないことです。
最初の一本だけ採って、同じ根元の新しい芽は残すのが毎年いいウドを採るコツになります。

コシアブラの場合は、枝振りによって採る採らないを見極める必要があります。
来年太くなりそうな枝か、また充分太くなっているかとか、コシアブラの見極めは山菜採りでは一番難しいでしょうね。伸びそうな枝はまったく採らないでおいた方がいいし、全部採ってしまうとその木は枯れてしまいます。

一本からは少しずつ採るようにして、来年この枝はもっと太くなるだろうとか木のことを考えながら、とにかく次の年もまた採れるようにコシアブラは楽しんでほしいと思います。」

要は、山菜採りというのは次の年のことを考えながら採ることが大事であり、マナーでもコツでもあるということである。
全部採ってやろうなどと考えないことが次の年の収穫を約束してくれることにつながる。そこをもっと知ってほしいと志田さんは言う。