〝森の目〟の醍醐味

いよいよ志田さんの大好きなタケノコ採りのことを聞いたみた。すると「そうなんですよ、タケノコ採りが好きでねぇ」と笑みが膨らんで声まで張りが出た。

「なぜだろう、とにかく楽しいんだよね。竹藪をかき分けて入っていくと、斜めに小さくのぞかせていてそこをピンと横から起こしてあげると程良い長さのタケノコが採れる。
見つけるには目が慣れないとなかなか難しいけれど、それだけに楽しいのかな。
うちのアルバイトの子を連れて行くとツンツンと伸びてしまっているのしか目に付かない。そうでなく見えないごく若いタケノコを見つけなければいけない。

時期も難しいんです。ちょっと遅れると伸びすぎてしまい、早いと見えない。
ちょうどいい時期というのがあって、それはまわりの木の葉っぱの濃さの色とかコブシのように早春に白い花を付けるタムシバが花を散らせかけている時とか、私達はそれらが程良い加減にある場所を探すわけです。

だからタケノコのある下ばかりを見るのではなく、まわりの木の上の方を見てありそうな場所を見つけてから採るわけです。上を見た方が直ぐに分かります。」

野鳥の会の人達もそうだが、森に入ったら〝森の目〟にならなければ見つけられないのと同じであろう。
そんなところに山菜採りの醍醐味があるにちがいない。

月山は雪がいっぱい積もる。同じ所でも風の向きによって多く積もったり積もらなかったりする。雪解けが遅ければ山菜が採れるのも遅くなる。
従って、毎年必ず同じ場所や時期に山菜が採れるとは限らない。

特にタケノコ採りは竹藪なので山菜は採れない。タケノコは六月始めから出るので、その時期はタケノコを採ったら次の日は別な場所へ、また次の日もさらに違う場所へ山菜を採りに行く。
タケノコは三日に一回で、タケノコ→山菜A→山菜B の順に出掛ける。それを繰り返す。

場所を変えながら全部採らないで残す採り方をすると、ほとんどの山菜が採れるシーズンはずっと楽しめ、次の年も同じように楽しめる。
三十種類はある山菜、月山はまさしく山菜の宝庫なのである。

月山の自然とその自然を楽しめるスケールは半端ではない。山菜も種類が多いので軽い登山用のリュックに加え、もう一つ小さなナップザックを用意して行くといいだろう。

滑り納めは山菜の美味で

志田さんが経営する月山の宿「かしわや」は、元はご両親が経営していた「かしわや食堂」で、昭和四十三年に志田さんが勤めていた山形市から戻ってきてから宿泊もできる旅館になった。

「当時は夏スキーの客が県外客も含めて毎年倍々と増えて大変やりがいのある時期でした。
しかし毎年十一月から三月いっぱいまでは雪に閉ざされますから、十軒ある旅館のほとんどが家族経営でした。

今はトレッキングや雪を見たいというお客様もいて、どこも年間を通して営業しています。うちでは山菜の味を味わって貰いたいので薄味で調理しています。

都会や外国のお客様には、例えばフキノトウは真ん中の花の実を三分の二ほど摘み取ってから調理します。
客層によって作り方を変えるのは大変ですが、それも永年の山菜好きが昂じてやってきていることですし、それでお客様に喜ばれているので、むしろやりがいを感じています。

これからの夏スキーシーズンには全国のスキー場をめぐってきたスキー客が〝滑り納めは月山だ〟と言って今年も月山にやって来てくれます。
ちょうど山菜の時期でもあり、私達も大いに腕を振るいおもてなしすることになります。

毎年楽しみなシーズンがいよいよやって来ました。」

今年の山菜は平地では遅いようだが、月山は平年並みの模様。志田さんは、「おいしい山菜を採ってきますから」と自信をのぞかせた。


写真はイメージです。


(出典:『やまがた街角 第29号』2017年発行)

●『やまがた街角』とは
文化、歴史、風土、自然をはじめ、山形にまつわるあらゆるものを様々な切り口から掘り下げるタウン誌。直木賞作家・高橋義夫や文芸評論家・池上冬樹、作曲家・服部公一など、山形にゆかりのある文化人も多数寄稿。2001年創刊。全88号。